不動産資格の不人気傾向
記事:行政書士試験とは?にて、行政書士試験が近年注目されている試験であると述べましたが、これには客観的なデータがあります。
まず前提として、士業系資格は近年、申込者数が減少傾向にあります。
事実、この記事で比較に挙げる4つの資格全てにおいて、申込者数が平成15年~23年にピークを迎えた後、ジェットコースターのごとく急降下を始め、現在ではピーク時の5割~7割程度まで落ち込んでいるのです。
<< ピーク時と現在の比較 >>
行政書士:96,042人(平成15年)→ 61,869人(令和3年)
司法書士:33,166人(平成22年)→ 14,988人(令和3年)
社労士 :70,648人(平成23年)→ 49,250人(令和3年)
税理士 :67,858人(平成17年)→ 35,774人(令和3年)
それぞれ取得難易度や取得後の業務内容に差はありますが、資格系職業の不人気という事実は残念ながら認めざるを得ないでしょう。
要因の一つとして、AIの台頭等、将来仕事がなくなるのではないかという、業界全体への漠然とした風評が挙げられており、各資格の本部団体も頭を抱えています。
いずれも独占業務という強い武器を持ち、食いっぱぐれのない職業として特に不景気に強そうなイメージですが・・・。
アナログな仕事は徐々に淘汰され、デジタルな仕事が台頭していく時代ということでしょうか?
確かに世間では印鑑レス、ペーパーレスが励行されるようになってきていますが、まさに士業はそういったところとは一番遠い業界のように思えます。
ここは政府や各団体が一丸となり、前例にとらわれない抜本的なイメージ改革を行ってほしいものです(もちろん、簡単なことではないでしょうし、具体的な策は何も出てきませんが・・・笑)
申込者数の推移 比較
さてここからが本題です。
士業系資格の全体的な不人気については先述した通りですが、実はそう単純な話ではありません。
申込者数の推移をよ~く読み込んでみると、各資格試験との比較において、ある事実が浮かび上がってくるのです!
以下のデータをご覧ください。
直近10年以上減少を続けてきた申込者数は、全体的に令和2,3年で下げ止まりの傾向を見せています。
これは新型コロナウイルスの影響により、
① 在宅時間が増え、資格取得を目指す人が増えた
② 倒産、解雇により資格取得を目指す人が増えた
③ 先行きの不透明な社会情勢から、仕事に直結する資格取得を目指す人が増えた
ことが主な要因であると考えられています。
そしてその中でも、特に行政書士試験については顕著な動きを見せています。
平成30年度に50,926と底を打ってからは3年連続で増加傾向にあり、特に令和3年度は一気に6万人の大台に乗せるなど、
明らかに他士業と比べて人気が高まっていることが見受けられます。
他の3士業については「下げ止まり」「現状維持」が関の山であることを考えると、この行政書士の回復ぶりは偶然とは言えないでしょう。
上記折れ線グラフの”ぴょこん”というハネ具合を見ていただければ一目瞭然ですね笑
行政書士試験の人気傾向
さてここで話が終わっては意味がありません。
なぜ、行政書士試験だけ人気傾向にあるのでしょうか?
ここからは私の推測になりますが、大きく二つの理由があると考えられます。
理由1:一人で即開業が可能
せっかく資格を持っていても、究極は仕事(お金)に直結しなければ意味がありません。
その点、例えば司法書士であれば合格後に4カ月の実務研修を経なければならず、社労士は2年間の実務経験もしくは4カ月間の通信研修、税理士に至っては、登録の際に2年間の実務経験が必須となっています。
また、特に司法書士と税理士については、その専門性の高さゆえに、まずは各種法律事務所、会計事務所に勤務することがセオリーとなっており、資格取得後にいきなり開業することは困難であると言えるでしょう。
つまり、「すぐに仕事が欲しい、稼ぎたい」という場合や、「とりあえず資格を取っておけばいざというときに食いっぱぐれないだろう」といった動機には適さないということです。
一方、行政書士試験は上記のような事前の研修や登録の際に必要となる実務経験の様な要件は不要であり、比較的すぐに開業が可能であり、これがコロナ禍で注目された理由の一つではないかと考えています。
特に近年はYouTubeやSNSの発達により、「行政書士は食える資格」という情報が拡散されていることも少なからず要因となっているでしょう。
(ただし、実際に収入を得るためには無収入期間を耐えうる一定の資金力や、相当な営業努力が必要であり、「行政書士は簡単に稼げる」という考えは大きな間違いです。)
理由2:独学、社会人が目指せる絶妙な難易度
これぞ正にこのサイトの趣旨となりうるタイトルです。
この記事ではこれまで4つの士業を比較してきましたが、実は取得難易度は全く違います。
司法書士と税理士は最低でも3,000時間の勉強が必要と言われており、「ちょっと手に職つけるために資格とってみっか!」というノリで突破できるものではありません。
専業受験生以外は、法律事務所や税理士事務所で補助者として勤めながら目指す方が多く、それ以外の社会人が独学で目指すのは極めて難しいといっていいでしょう。
社労士については上記2つの資格ほどではありませんが、一般的に行政書士の1.5~2倍の勉強量が必要とされており、相当な労力と時間に加え、1年越しとなるとモチベーションの維持が難点となってくるでしょう。
一方、行政書士試験はどうなのでしょうか?
ネットで「行政書士 必要時間」と調べると、半年~1年、600時間程度と出てくることが多く、これがコロナ禍で不安を抱える現代人の心を揺さぶる、絶妙な難易度であることが近年の人気の要因であると考えています。
これがもし、1年半とか1,000時間以上と言われたらどうでしょうか?一気にハードルが上がりますよね・・・撤退する人が爆増するでしょう。
行政書士試験のこの必要時間は、「頑張ってやってみようかな?」と思わせる、ギリギリ手が届きそうな本当に絶妙なラインであると私は考えています笑
比較的受験者数も多いことから、インターネット上に情報が多く転がっており、また、YouTubeで「行政書士試験 対策」と調べると、予備校を始め、実際に試験をクリアした一般人のチャンネルが山ほどヒットします。
独学、社会人であっても非常に目指しやすい環境であることは間違いなく、今後もしばらく増加傾向が続くことが予想されます。
士業資格の登竜門的存在である行政書士試験は、学歴の無い方や法律初学者、全く畑違いの仕事をしていた方など、どんな方にもチャンスがあり、正に手に職をつけたい方の受け皿となっていくでしょう。